
対談03 ヤフー前社長・井上雅博[追悼対談]
Part2 不器用な愛情表現
2017年08月11日
ヤフー株式会社 代表取締役社長
宮坂 学様
MANABU MIYASAKA
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黙って任せる、そんな不器用な優しさを感じた。
宮坂
Overture JAPANの買収は、日本の歴史に残るディールだったと記憶しています。そこから膨大なキャッシュが生み出されもしました。それをトシさん、何歳の時に担当したのでしたっけ。まだ30代ですよね?
トシ
37か38歳くらいでしたね。
宮坂
それくらいの若手に現地へ行ってやってこいというのは、考えられないですよね。そんなに大きな案件だったら、私は自分で行ってしまうかもしれません。社長になってみると、あらためて凄さがわかります。
トシ
よく思うのですが、ヤフーも小さく始めたけど、瞬く間に何百人、何千人と増えていきました。そうした急成長の中、いろいろ言われはしましたけど、けっこう任せられていたと強く感じますね。
宮坂
そう思いますね。特に、当時の我々の年齢を考えると。
トシ
事業部長なんて言っても、他社からすれば平社員くらいの年齢じゃないですか。
宮坂
32歳とか、そんな感じでしたよね。
トシ
それで一部門、何百億の売上を扱うトップになるわけです。なかなか普通の会社にいたら、そこまで任せてもらえないですよね。必然的に経験値が上がり、その経験を元に経営をアシストできるようになっていったんじゃないかと。


宮坂
若くして、経営を考えるようになりましたね。
トシ
経営の立場からすると、「お前やれ」って言えるかですよね。それで“Otoro”の件のように、不器用ながらも見守ってもらっている感じがしました。
宮坂
そういうちょっとした優しさは、いつも感じますよね。言ってみれば、シャイな人だったと思うんですよ。本人にとってはそれなりに期するものがあって、『飯行こうぜっ!』てがんばって誘っていた。
トシ
ああ、なんとなくわかります。
宮坂
昔、ヤフーが表参道にあった時、ブルーノートによく連れて行ってくれたじゃないですか。いま思うと、会社が急激に大きくなるタイミングで、社員の顔と名前が一致しなくなってきた。そこで井上さんなりに考えたと思うんですよね。いろんな人間を連れて行って話を聞こうかなと。井上さんのパーソナリティからすれば、一人で行くか友だちと行く方が良いはずです。それなのに毎回毎回、飽きもせずに全社で呼びかけて、現場の社員や新卒をまとめて連れて出かけて行った。決してべらべら喋るわけでもなく、寡黙にワイン飲みながら聞いているパターンが多かったんですが。
いま振り返ると、その時、自分はわかってなかったなと思うんです。ここからは推測なんですが、井上さんはいろんな人の話を聞きたいんだろうなと、私がまず理解しなくてはいけなかった。井上さんはシャイな方でしたから、私がリーダーシップをとって「彼はこういう人間で」とか話しておくべきでした。
トシ
いま、宮坂流でそうしたコミュニケーションを行ったりしてないんですか?
宮坂
いまはランチ会を定例的に。社長になって1、2年目の頃は、毎週5〜6人とランチに行くということもやってました。6人以上になると1テーブル超えてしまうので、一回あたり5〜6人で。1年やると250人、2年で500人くらいになるので、全社10%ぐらいの人と行った計算になります。
トシ
そこで聞いた話って、社長としての仕事に役立ってますか?
宮坂
生の声なので、参考になりますよね。実際に人事制度や組織づくりに活かしたこともありました。そうそう、そうした場では、井上さんの言葉を使わせてもらっていたんです。『今日は好きなこと言ってもいいよ。でも話は聞くけど、言うことは聞かないから』と(笑)。おお、良い言葉だなと記憶に残っています。
トシ
組織が大きくなっていった過程で、何か変わったことはありますか。
宮坂
箱崎、表参道・・・移転する毎に人数はすごい勢いで増えていきました。そして、だんだん井上さんと社員との距離が遠くなって行ったと思うんです。振り返ると、僕が井上さんと社員の間を取り持つ役割をもっと果たすべきだったと思います。ブルーノートの時と同じですね。
トシ
朝礼とか、ありませんでしたよね、そういえば。
宮坂
そう、いまは毎月1回全社員向けの朝礼を実施して、会社の方針を話していますが、井上さんはそういうことはやろうとしなかった。一度、「朝礼とかどうですか」と訊いたことがあるんです。そうしたら、やらないと一刀両断。だから、つなぎは私の役目だったと思いますね。ただ当時、私はサービスを作ることばかりに夢中で、「そんなことやる暇があったら、サービスを作りたい!」となっていた。でも組織のこと考えると、「飯行きましょうよ」と誘うのも大切な仕事だったんだろうなと思います。
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